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Channel: ゴクラキズム
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[書評] 笑いのカイブツ/ツチヤタカユキ(文藝春秋)

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「笑いのカイブツ」は、笑いにすべてをかけた「伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキ」の青春私小説です。狂気ともいえるお笑いへの熱意は、やがて自分の中にカイブツを生み出し、たくさんのものを犠牲にしていきます。それでもなお人を笑わせるために彼は走り続けます。

笑いのカイブツについて

人生のすべてをお笑いにかけた著者は、テレビや雑誌の投稿企画に自分のボケを送りまくり、やがて伝説のハガキ職人となっていきます。

大きな目標であったケータイ大喜利レジェンドを達成し、さらに自分へのノルマは高まっていき、ついには毎日2,000本のボケを作るまでになります。もはや息をするくらいに自然に出てくるようになっていったボケですが、それを上手く生かすことができません。

彼はあまりにお笑いに対して純粋すぎるため、人間関係が極度に不得手でした。

そのため、自分の笑いを世に広める機会に恵まれず、作家としての道も断たれてしまいます。

やがて「こんなことをして何になるのか」といった自問がでてきますが、彼を認めてくれた芸人のため、苦しみながらもお笑いを続けます。しかし、身を削ってお笑いを続けるのですが、それがなかなか仕事につながりません。

七転八倒しながらも、自分の笑いを貫こうとする彼に、読者はきっと心が打たれるはずです。

事実は小説よりも奇なり

まず驚くのが、これが実話ということです。

1日に2,000本ボケ続けるというのは、フィクションでもまずありえない設定です。

最近の例でいえば、火花に登場する神谷も狂気を孕んだお笑い芸人として描かれていますが、ツチヤタカユキはそれを凌駕していると思います。笑いを追求しすぎて、他のすべてがダメになっていくのが何とも痛々しいです。

さらに驚くべきことが、この話がサクセスストーリーではないということです。

一般的な小説ならば、これほどの苦労をしたならば、最終的には売れてハッピーエンドですが、ツチヤタカユキ自身、まだまだ有名とはいえません。少なくてもこの終わり方だと売れっ子作家になったとも思えません。

つまり生活のすべてを犠牲に頑張ったとしても、報われるとは限らないという話なのです。

しかし、まだ彼は若く、お笑いを続けているはずです。

そのため、いずれはこの本がサクセスストーリーの序章になる可能性があるというところも面白いです。

だんだんエスカレートしていく生活、業界の生々しいやり取り、ハガキ職人としての栄光と挫折などなど、物語としても十分楽しめます。

お笑いに興味がある人にぜひ一読して欲しい1冊です。


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